妊娠すると胎児をつつむ膜(栄養膜)ができます。染色体異常を伴う妊娠の場合、栄養膜に異常が発生します。栄養膜が過剰に増殖する状態を絨毛性疾患と呼びます。一部正常な胎児の成分を認める部分胞状奇胎と、正常な胎児成分を認めない全胞状奇胎があります。全胞状奇胎ではその後に異常が続発する頻度が高いとされています。
胞状奇胎と診断された場合は、子宮内に増殖した異常な組織を摘出する必要があります。子宮内容清掃術を行います。1回目の手術に引き続き1週後に2回目の手術が必要な場合があります。この手術を行ったのちに、妊娠時に高値となるhCGというホルモンを測定します。hCGは子宮内容清掃術を行う前はかなり高値になっていますが、処置後に順調に下がっている場合はそのまま経過をみます。hCGの低下が不十分な場合や、一度正常化した後に再度hCGが上昇してくる場合はどこかに胞状奇胎の組織が残存している、あるいはすでに子宮外に広がっている、あるいはどこか再発していると判断して検査を行うことになります。
CTやMRI検査で広がりやすい子宮筋肉内、肺、肝臓、脳を調べ残存の有無や転移を調べます。またhCGの値や、病変の状況、月経の状態などを調べて胞状奇胎が子宮筋層に浸潤している状態(侵入奇胎)か、さらに悪くなって絨毛癌になっているかを絨毛癌診断スコアによって鑑別します。侵入奇胎か絨毛癌かの判断により治療法(化学療法の種類)が異なります。
絨毛性疾患は治癒する可能性が高く、化学療法は根治を目的に行います。そのため少し副作用が出る場合がありますが、頑張って治療を行いましょう。
侵入奇胎の場合は1種類の抗がん剤(メソトレキセート、あるいは、アクチンマイシンDの単独治療)による治療が行われます。絨毛癌の場合は、多剤併用療法が行われます。EMA/CO(エトポシド、メソトレキセート、アクチノマイシンD、シクロフォスファミド、オンコビン)という5剤併用療法になります。これらの治療が効かない場合は抗がん剤を変更します。治癒率は90%以上であり、化学療法で治癒が望める数少ない疾患です。hCGが陰性化してから3コース追加して治療を終了するようにしています。
hCGが上昇していないことを定期的に確認します。再発するとhCGが高くなるため月経が止まることがあります。正常に妊娠して月経が止まる場合もありますので、月経が止まった場合は主治医の先生に相談して下さい。