自然の妊娠では自然の性交で射精された精子が膣と子宮を通って卵管に達し、排卵された卵子とひとつになって受精が成立します。受精卵が卵管の運動によって子宮内に輸送され、排卵してから約1週間後に子宮内膜に付着・癒合(着床)すると妊娠が成立します。
体外受精・胚移植では卵巣から直接卵子を体外に取り出し(採卵)、卵子と精子を培養液の中でいっしょに培養して受精させ(媒精)、受精卵が胚に成長した時点で子宮内に戻します(胚移植)。
体外受精の説明を受け、治療を希望される場合は、同意書, 依頼書に夫婦各自でサイン、捺印をしたうえで住民票または戸籍謄本をそえて提出していただき、このとき体外受精を実施する月を予約します。
直前の周期まで一般不妊治療を続けていると、体外受精の周期にあまり卵胞が発育してこないことがあります。そのため体外受精の前には1-2カ月位治療を止め、卵巣を休ませます。
治療前周期の月経3日目頃に外来受診していただき、血液(ホルモン)検査を行います。
患者さんごとに卵巣刺激の方法をご相談します。
ロング法で行う場合は高温相7日目より点鼻薬(スプレキュア)を開始します。
スプレキュアを使用しても月経は普段通りに起こります。スプレキュアを始めて2週間たっても生理にならない場合はご相談ください。
治療周期の月経が始まったら予約日に外来受診して下さい。経膣超音波検査および、血液検査を行います。
またこの時、採卵までの注射の日程を決めます。
当科では、あらかじめ採卵の予定日を決め、それに合わせて排卵誘発剤(●FSH/HMG)の注射をはじめます。
基本的には金曜日から注射を開始して、翌々週の水曜日が採卵日となるように設定します。
注射開始後5日目から経腟超音波検査で卵胞発育の様子を観察します。
スプレキュアは中止の指示が出るまで続けて投与してください。きちんと投与していないと採卵日までに排卵してしまい,体外受精ができなくなります。
卵胞が充分に発育したことを確認したら、スプレキュアは採卵日の2日前の就寝前を最後の投与とし、採卵日の約36時間前に卵子の成熟をうながす注射(hCG ●)をします。卵胞の発育が不良な場合は、注射を継続して採卵日を遅らせます。
基本的に午前中に採卵を行い2-3時間休んでから帰宅する外来処置となります。
午前中に受精確認を行います。結果を午前11時ころに説明します。
胚の状態を確認の上、子宮に戻す胚移植を行います。胚移植は数分で終わり、痛みはほとんどありません。
胚移植後10分~15分程度安静にしてからお帰りになれます。
例1)hCGの注射を3日に1回投与…3~5回
例2)プロゲステロン膣坐薬を毎日投与…10~14日間
退院後は普通に生活していただけますが、できるだけ安静を心がけてください。
来院して外来で診察を受けてください。
月経になった場合も受診し、担当医と次回治療について相談してください。
当科では多胎妊娠を防ぐため、日本産婦人科学会の勧めに従って、移植胚数は原則1個としております。
そのため、移植しない良好な余剰胚ができることがあり、患者御夫婦の同意が得られれば余剰胚を凍結保存します。(凍結同意書,夫婦のサインが必要)
多胎予防のため採卵後5~6日目の胚(胚盤胞)を1個移植します。
場合によっては、採卵後2~3日目の胚(初期胚)を早めに移植すること、2個胚移植を考えることもあります。卵巣過剰刺激症候群の症状が強い場合などは、新鮮胚移植(採卵した月に移植すること)を中止し、育った胚を全て凍結(全胚凍結)して、症状が落ち着いてから融解胚移植を行います。
採卵は静脈麻酔と局所麻酔で行い、約10-20分で処置をおわります。
処置後2時間安静にして、異常がなければ帰宅できます。
通常の体外受精では運動精子と卵子をいっしょに培養します(媒精)。
通常の体外受精で受精卵が得られない患者さんは顕微授精(卵細胞質内精卵細胞質内精子注入法)の適応となります。
媒 精 卵細胞質内精子注入法
受精卵の培養を継続すると分割がすすみ子宮に着床する直前の胚盤胞まで発育させることができます。胚移植に用いられるのは採卵後2日目の2~4分割した初期胚、または採卵後5~6日目の胚盤胞です。
良好胚を選び、細いカテーテルで子宮内に移します。
このときカテーテルの先端が子宮内膜の厚くなっているところに確実に位置するように、必要に応じて膀胱に生理食塩水を200ccほど注入して満たし、経腹超音波で観察しながら行います。
当院では体外受精を検討中、治療前、治療中、治療後、治療を繰り返し行っても妊娠しない時など、患者さんのご希望のある時点でカウンセリングを行う体制を整備しています。ご希望の方は不妊治療担当医や看護師にご相談ください。
卵胞を発育させる注射を行い、排卵を促す注射に切り替えてから数日して卵巣が過剰反応を起こし腫大することがあります。
卵巣には、穿刺した卵胞や排卵しないまま発育し続ける卵胞が多数存在し、卵巣の過剰な腫大を起こすと同時に過剰な女性ホルモンの分泌がみられます。さらに血液中の水分が血管の外に移行し、ひどくなると腹水や胸水がたまったり,血液の濃縮が進んで流れにくくなり、血栓症(脳梗塞,心筋梗塞など)を起こすこともあります。
腹部膨満 …お腹がはる、ウエストがきつい
乏尿 …尿の出が悪い、量が少ない、のどがかわく
はき気がする 胃が痛い 食欲がない 下腹が痛い 呼吸が苦しい …など
体外受精では、妊娠率を高めるために排卵誘発剤を注射することが不可欠です。当科では排卵誘発剤を使用するときは,卵胞発育の経過観察を慎重に行っています。また卵巣過剰刺激症候群を起こす可能性の高い人に対しては、排卵誘発剤の量を減らしたり、胚移植後の投薬方法を工夫して、その発生を予防するよう努めています。
しかしこのような方法で予防しても2~3%の患者さんには、入院加療を要するような卵巣過剰刺激症候群が発生しております。前頁のような症状がある場合は早めにご連絡ください。
採卵手術では卵胞を穿刺するため、腹腔内に多少の出血がみられます。ほとんどはそのまま吸収されて消えますが、血管の損傷などがあると出血が多量となり、輸血を必要としたり、開腹手術を必要とする可能性も否定できません。当科での採卵手術で出血のため重篤な状態に陥った例はありませんが、わずかながら危険性はあることを留意しておいてください。また,自宅に帰ってから気分が悪い,目の前がまっくらになる,ひや汗をかく,などの症状がありましたら直ちにご連絡ください。
採卵手術後、細菌などによる骨盤内感染を起こすことがまれにあります。その場合、採卵後数日たってから、強い腹痛や発熱が出現します。抗生物質の投与により軽快しますが、炎症が強い場合は、その周期における胚移植を中止せざるをえないことがありますので、ご了承ください。