不妊治療とは
1. 女性のからだ
女性のからだには、妊娠するために子宮、卵巣、卵管、腟という女性特有の内臓があります。

卵胞の発育とホルモン分泌
女月経周期は、脳の視床下部と下垂体と呼ばれる部分からでるホルモンによって調節されています。下垂体からは卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。

FSH は主に月経周期の前半に放出され、血液の流れによって卵巣に届き、卵胞の成熟を促進します。この間、卵胞はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンを分泌します。
このエストロゲンは子宮に届いて、子宮内膜を厚くする働きをします。
月経周期の中間頃になると LH が大量に分泌され(これを LH サージといいます)、その作用で卵胞が破裂し、卵子が排出されます。これを排卵といいます。通常は1つの卵胞が排卵します。排卵後の卵胞は黄体となり、プロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンを分泌するようになります。プロゲステロンは、着床に適したように子宮内膜を変えてゆく働きを持っています。また、この時期に基礎体温が上昇するのもプロゲステロンの働きです。
着床
子宮から腕のようにのびている卵管の先には、グローブのように広がった卵管采と呼ばれるひだがあります。排卵された卵子はそこでキャッチされ、卵管の中へと入って行き、そこで精子と出会って受精が起きます。受精卵は分割をはじめ(胚と呼ばれるようになります)、子宮へと運ばれて行き、しばらくすると子宮の内膜に接着します。これを着床といいます。着床により妊娠が成立したことになりますが、排卵から着床までは約1週間かかります。
着床が起こらなかった場合は、排卵から約2週間たった頃に子宮内膜が剥がれ落ちて月経となり、また次の月経周期が始まります。

2. 不妊症とは
どういった時に不妊症というのでしょうか(不妊症の定義)
不妊症とは、妊娠を希望するカップルが、避妊せずに定期的な性交を行っているにもかかわらず、1年間妊娠しない状態をいいます。過去に妊娠したことがある場合でも、その後妊娠に至らない状態は「続発性不妊症」と呼ばれます。世界では、生殖年齢にある人のおよそ6人に1人が、生涯のいずれかの時点で不妊を経験すると推定されており、決してまれなことではありません。
ただし、これは必ず1年間待ってから受診しなければならないという意味ではありません。妊娠を希望する女性が35歳以上の場合は、妊娠しない期間が6か月程度になった時点で検査を始めることが勧められます。40歳を超える場合には、さらに早い段階での相談や検査が望まれます。
また、無月経や著しい月経不順がある場合、子宮内膜症や卵管の病気、骨盤内の手術歴がある場合、抗がん薬や放射線治療を受けたことがある場合、性交や射精が難しい場合、精巣の病気がある場合などは、年齢や妊娠を希望してからの期間にかかわらず、早めに医療機関へ相談してください。
不妊の原因にはどのようなものがあるのでしょうか
妊娠が成立するためには、卵子が発育して排卵すること、精子がつくられて射精されること、精子と卵子が卵管内で出会って受精すること、受精卵が子宮まで運ばれて子宮内膜に着床することが必要です。このいずれかに問題があると、妊娠しにくくなることがあります。
不妊の原因には、女性側の因子、男性側の因子、女性と男性の双方の因子があります。複数の因子が重なっていることも少なくありません。また、一連の検査を行っても明らかな原因が見つからない場合もあります。男性側の因子は、不妊カップルのおよそ半数に単独または複合的に関与するため、女性と男性を同時に検査することが大切です。
女性側の主な原因
| 主な因子 | 代表的な状態・原因 | 妊娠への主な影響 |
| 年齢・卵巣機能に関する因子 | 女性年齢の上昇、卵巣機能の低下、早発卵巣不全、卵巣手術後、抗がん薬・放射線治療後など | 卵子の数や妊娠につながる卵子の割合が低下し、妊娠しにくくなることがあります。 |
| 排卵因子 | 多囊胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、過度の体重減少や肥満、視床下部・下垂体の異常など | 卵胞が十分に発育しない、または排卵が規則的に起こらないことがあります。 |
| 卵管因子 | クラミジアなどによる骨盤内感染症、卵管留水症、腹部・骨盤内手術後の癒着など | 精子と卵子が出会うことや、受精卵が子宮へ移動することが妨げられます。 |
| 子宮内膜症・骨盤内因子 | 子宮内膜症、骨盤内の炎症や手術による癒着など | 卵子の取り込みや卵管機能などに影響し、妊娠しにくくなることがあります。 |
| 子宮因子 | 子宮内腔を変形させる子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内癒着、子宮の先天的な形態異常など | 受精卵の着床が妨げられることがあります。 |
年齢による妊娠しやすさの低下
女性の妊娠しやすさは年齢とともに徐々に低下し、特に35歳前後からその傾向が目立つようになります。年齢とともに卵巣内の卵子の数が減少するとともに、妊娠につながる卵子の割合も低下するため、自然妊娠だけでなく不妊治療による妊娠率も低下し、流産率は上昇します。年齢は不妊症の検査や治療を行う時期を考えるうえで重要な要因です。
排卵因子
卵胞が十分に発育しない、または排卵が規則的に起こらない状態です。代表的なものに多囊胞性卵巣症候群があります。そのほか、過度の体重減少や肥満、激しい運動、視床下部や下垂体の異常、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、早発卵巣不全、一部の薬剤などが排卵障害の原因となります。
卵管因子
卵管は、精子と卵子が出会って受精し、受精卵が子宮へ移動するための通り道です。クラミジアなどによる骨盤内感染症、子宮内膜症、過去の腹部・骨盤内手術などによって、卵管が閉塞したり、卵管の周囲に癒着が生じたりすることがあります。
卵管が開通していても、卵子を取り込む機能や受精卵を子宮へ運ぶ機能が低下している場合があります。両側の卵管が閉塞している場合には自然妊娠は困難ですが、体外受精によって妊娠を目指すことができます。
子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮の内側以外の場所に発生する病気です。卵管や卵巣の周囲に癒着を起こすだけでなく、卵巣機能、卵管機能、受精などに影響し、不妊の原因となることがあります。
子宮因子
受精卵が着床する子宮内腔に異常があると、妊娠しにくくなることがあります。子宮内腔を変形させる粘膜下子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内癒着、子宮の先天的な形態異常などが主な原因です。
ただし、すべての子宮筋腫や子宮内膜ポリープが不妊の原因になるわけではありません。病変の位置、大きさ、子宮内腔への影響などを踏まえて判断します。
男性側の主な原因
男性不妊には、精子をつくる機能の低下、精子の通り道の異常、性交や射精の障害などがあります。
| 主な因子 | 代表的な状態・原因 | 妊娠への主な影響 |
| 造精機能障害 | 精索静脈瘤、停留精巣、染色体・遺伝子の異常、精巣炎、抗がん薬・放射線治療の影響など | 精子の数、運動性、形態などに異常が生じることがあります。 |
| 精路通過障害 | 先天的な精管の欠損、感染症、炎症、手術後の閉塞など | 精巣で精子がつくられていても、精液中に精子が出てこない、または著しく少なくなることがあります。 |
| 性交・射精障害 | 勃起障害、腟内射精障害、無射精、逆行性射精など | 精子を腟内に届けることが難しくなります。 |
| ホルモンに関する因子 | 視床下部、下垂体、精巣などのホルモン異常 | 精子形成に必要なホルモンの働きが障害されます。 |
| 薬剤・全身状態などによる影響 | テストステロン製剤、一部の薬剤、糖尿病などの全身疾患、発熱を伴う病気、喫煙、肥満、過度の飲酒など | 精子形成、性機能または射精機能に影響することがあります。 |
造精機能障害
精巣で十分な数の精子がつくられない、または運動性や形態などの精子の状態が低下している状態です。精索静脈瘤、停留精巣、染色体や遺伝子の異常、精巣炎、抗がん薬・放射線治療などが原因となることがあります。検査を行っても、造精機能障害の原因が明らかにならない場合も少なくありません。
精路通過障害
精巣で精子がつくられていても、精巣上体や精管など、精子の通り道が閉塞しているために、精液中に精子が認められないことがあります。先天的に精管が形成されていない場合や、感染症、炎症、手術などによって閉塞する場合があります。
性交・射精障害
勃起障害、腟内射精障害、射精そのものが起こらない状態、精液が膀胱内へ逆流する逆行性射精なども不妊の原因となります。心理的な要因だけでなく、糖尿病、神経疾患、骨盤内手術、一部の薬剤などが関係することがあります。
ホルモン・全身疾患など
視床下部、下垂体、精巣などのホルモン異常のほか、慢性疾患、発熱を伴う病気、喫煙、肥満、過度の飲酒、薬剤や有害物質への曝露などが精子形成や精子機能に影響することがあります。
精液検査について
精液検査では、精液量、精子濃度、精子運動率、精子の形態などを調べます。精液検査の下限参考値は次のとおりです。
表:精液検査 下限基準値(WHO laboratory manual(第6版))
| 検査項目 | 基準値 |
| 精液量 | 1.4 mL以上 |
| 精子数 | 3,900万個以上 |
| 精子濃度 | 1,600万/mL以上 |
| 総運動率 | 42%以上 |
| 前進運動率 | 30%以上 |
| 生存率 | 54%以上 |
| 正常形体率 | 4%以上 |
これらの数値は、妊娠できるかどうかを一つの値で区切る「合格・不合格」の基準ではありません。基準値を下回っていても自然妊娠することがあり、基準値を上回っていても妊娠が保証されるわけではありません。また、精液所見は体調や採取条件によって変動するため、異常が認められた場合には再検査を行い、複数の項目を総合して評価します。
複合因子と原因不明不妊
女性側と男性側の双方に妊娠しにくくなる要因が認められることや、一人の方に複数の要因が重なっていることがあります。そのため、不妊症はカップル全体の問題として評価することが重要です。
また、排卵、卵管、子宮、精液などの一般的な検査で明らかな異常が認められない場合を「原因不明不妊」と呼びます。これは原因がまったく存在しないという意味ではなく、現在の一般的な検査では、卵子や精子の機能、受精、胚の発育、着床などに関する微細な問題を十分に確認できないことがあるためです。
3. 不妊症の検査
不妊治療を始める前に、まず原因検索のための検査を行います。女性側だけでなく男性側も検査を行い、一連の検査を終えた結果から患者さんの背景やご夫婦の希望を踏まえて治療方針を決定します。
女性側の検査は、月経周期の時期に応じた検査(血液検査、子宮卵管造影検査)と月経周期の時期に影響を受けない検査(血液検査、超音波検査)があります。

月経周期が整か不整かを確認します。不整の場合は排卵障害がある可能性があります。
月経周期は時期によって、卵胞期、排卵期、黄体期に分かれておりそれぞれホルモンの動態が異なるため血液検査で確認します。
子宮卵管造影検査は月経周期8〜10日目の月経が終わった直後ごろに行います。
腟から子宮内に細い管を入れて、X 線透視下にこの管から造影剤を注入し、X 線写真を撮影します。子宮の形態、卵管の形態、卵管の通過性などを確認します。

月経周期の時期に影響を受けずに行う血液検査では、甲状腺機能検査、血糖、感染症検査(クラミジア、梅毒、風疹抗体価)、卵巣予備能検査(抗ミュラー管ホルモン)などが含まれます。
超音波検査では、子宮や卵巣の形態的な評価を行います。子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症、卵巣腫瘍などの疾患や、生まれつきの特徴(子宮奇形など)がないかを確認します。
男性側の検査は精液検査です。精液所見の正常値を表に示します。精液所見は検査する時によって結果に差があるため、所見が良くない時には複数回行って評価することがあります。
表:精液検査 下限基準値(WHO laboratory manual(第6版))
| 検査項目 | 基準値 |
| 精液量 | 1.4 mL以上 |
| 精子数 | 3,900万個以上 |
| 精子濃度 | 1,600万/mL以上 |
| 総運動率 | 42%以上 |
| 前進運動率 | 30%以上 |
| 生存率 | 54%以上 |
| 正常形体率 | 4%以上 |
4. 不妊症の治療
不妊症の治療
不妊症の原因を明らかにしたら、それに適した方法で治療が始まります。
- 排卵障害:妊娠希望があれば排卵誘発
- 卵管障害:適応があれば腹腔鏡手術、生殖補助医療
- 男性不妊:精子を認めれば人工授精、顕微授精、泌尿器科紹介
原則として負担の軽い治療から開始し、結果がでなければステップアップします。患者さんの年齢や背景に応じて、治療内容やステップアップのスピードを決定します。
不妊治療は主に、一般不妊治療と生殖補助医療に分かれます。
一般不妊治療
タイミング法
排卵期に来院していただき、経腟超音波にて卵胞の発育状態を観察し、排卵日を推定して性交のタイミングを指導します。あるいは、排卵が近い卵胞があればLH 作用のあるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を注射して排卵を促します。
排卵誘発法
月経周期の3〜5日目から5日間、排卵誘発薬の内服を行い卵胞の発育を促します。排卵誘発薬には、レトロゾールやクロミフェン酸塩があります。卵胞の発育を確認できれば、タイミング法と同様にhCGを注射して排卵を促します。
内服薬で卵胞発育が確認できない場合や、第2度無月経の方には、ゴナドトロピン療法があります。卵胞発育作用の強いヒト閉経後ゴナドトロピン(hMG)や卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤を注射して卵胞の発育を促し、卵胞が一定の大きさに発育したら、hCGを注射して排卵を誘発する方法です。月経周期の5日目頃から投与を開始しますが、連日の注射のため、また頻回の超音波検査や血液検査を行う必要があるため、頻回な通院が必要となります。効果が高い反面、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群*などの副作用が発生する場合があるので、投与量、投与方法を工夫することによって、個人の状態に応じた治療方法を選択します。多数の卵胞が発育した周期には、治療を中断する場合もあります。
- *卵巣過剰刺激症候群については、こちらを参照してください。
人工授精

人工授精とは、受精を目的に人工的に精子を女性性器内へ注入することをいいます。精液の性状が不良な場合(数が少ない、運動率がよくないなど)、頸管粘液が少ない場合、抗精子抗体が陽性の場合、性交障害がある場合などに実施されます。
具体的には、細いチューブを子宮腔内に挿入し、そこから精液を子宮腔内に注入します。注入後は、約10分間安静にしていただきます。
腹腔鏡検下手術

腹腔鏡検査・手術は、不妊症の検査および治療において重要な役割を果たす方法であり、広く行われています。不妊の原因が明らかでない場合には、腹腔内の状態を直接観察する目的で実施することがあります。
検査は全身麻酔下で行い、臍の少し上から腹腔鏡(カメラ)を挿入し、子宮・卵管・卵巣およびその周囲の状態を詳しく観察します。
卵巣・卵管・子宮の周囲に癒着が認められた場合には、癒着剥離術を行います。また、卵管の通過性を確認するため、子宮側から色素を注入する卵管通色検査を行うほか、生理食塩水を通して卵管の通過性の改善を図ることがあります。さらに、腹腔内を十分に生理食塩水で洗浄します。
腹腔鏡検査・手術後は、妊娠率の向上が期待できるとされています。
また、子宮筋腫、子宮内膜症、卵管水腫など、不妊の原因となる婦人科疾患の診断・治療を目的として腹腔鏡手術を行うこともあります。
